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大阪高等裁判所 昭和33年(う)1447号 判決

控訴人 原審検察官

被告人 額田泰彦

検察官 志賀親雄

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、大阪高等検察庁検事井嶋磐根の提出に係る大阪地方検察庁検事飯田昭名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

よつて職権をもつて案ずるに、原判決書末尾の記載を見るに、裁判長裁判官笠松義資、裁判官吉益清、裁判官今中道信の各署名押印があるのみで、合議体を構成した裁判所の記載が認められない。尤も原審第七回公判調書の記載によれば、右裁判官は何れも大阪地方裁判所第四刑事部を構成した裁判所の裁判官であることは認められるけれども、判決書の記載自体のみによつてはこれを確認するに由がない。刑事訴訟規則第五五条第一項によれば、裁判書には裁判をした裁判官が署名押印しなければならないことになつており、同条に所謂裁判をした裁判官とは、訴訟法上適法に構成せられた裁判所の裁判官として、裁判をした裁判官を指称するものであるから、裁判をした裁判官が判決書に署名押印をするに当つては、必ずその構成せられた裁判所を記載するの要ありものと謂わなければならない。このことは、(一)裁判書の抄本には裁判所並びに裁判官の氏名を必要な記載事項として定めてあり(刑事訴訟規則第五七条第二項)、判決書の原本には当該裁判所の記載のあることを当然の前提としたものと認められること、(二)所謂調書判決(刑事訴訟規則第二一九条同第四四条)においても、公判をした裁判所の記載を必要な記載事項として定められていること、(三)官吏その他の公務員の作るべき文書には所属の官公署を表示した上で、公務員が署名押印しなければならない(刑事訴訟規則第五八条第一項)ことなどに徴しても、疑を容れないところである。然らば即ち、原判決書には当該裁判所の記載を欠き、判決書原本の形式要件を具備しない違法のあるものと断ぜざるを得ない。(この点に関する参考判例として大審院明治三七年(れ)第一三四一号同三七年七月七日判決、大審院判決抄録第一〇巻刑事一三二二頁並びに大審院昭和四年(れ)一一一二号同年一一月一八日判決)

よつて、検察官の控訴趣意に対する判断を省略し本件を大阪地方裁判所に差し戻すべきものとし、刑事訴訟法第三七九条、第三九七条、第四〇〇条本文の規定に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 本間末吉)

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